【初級編】相続・贈与に関する預金クイズ〝5選〟
今日は「初級編、預金に関する相続・贈与クイズ5選」という話をします。
当事務所では、これまで相続・贈与に関する記事を様々な投稿してきました。
今日はその中から、皆さんの生活に最も身近な預金に関するクイズについて○×形式で、5つ出題していきたいと思います。
私の事務所に来られる方の中には、
「先生の記事には全て目を通しました」
と言ってくださる猛者の方もいらっしゃるのですが、そういった方も含めて、これまで記事で見てきた内容がきちんと皆さんの頭の中に定着しているか、是非復習をも兼ねてこの記事で確認してみてください。
目次
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記事を読みたい方は、このまま下に読み進めて下さい。
【Q.1】亡くなった方の預金は死亡した日から1か月間は引き出してはいけない?
○と×どちらでしょうか?
被相続人の方が所有していた財産について相続税の申告をする際、
財産は『被相続人の方が亡くなった当日の価値』で評価するので、
● 被相続人が10月1日に亡くなり
● 遺族が10月2日に50万円のお金を引き出しても
● さらに10月3日に50万円のお金を引き出しても
財産評価の計算結果(10月1日時点の預金額)は変わりませんので、他の相続人に了解さえとっておけば何も問題ありません。
ここまで聞いて、
「あれ、銀行口座って契約している本人が亡くなったら凍結されるんじゃないの?」
「そして凍結された後は遺言書や遺産分割協議書がないと解除されないって聞いたけど?」
とこういった疑問を持たれた方もいらっしゃるでしょう。
ですが、実はそうではありません。
銀行は、「いつどこで誰が亡くなったか」ということをいちいち把握しておりません。
ですから、相続人の方達が家族が亡くなったことを銀行に言わなければ、亡くなった方の預金口座は基本的に凍結されることはないのです。
ですから、配偶者や家族のお世話をしている方は、家族が亡くなる前から
「どうやってお葬式代を払おう・・・」
「亡くなった後も当分の間一切預金は引き出せないんだ・・・」
と、そう深刻に悩まれる必要はありません。
先程も言いましたように、家族が亡くなられた後でも他の相続人の了解さえ取っておけば、比較的自由に故人のお金を引き出すことができますからね。
ですが、
● 銀行の窓口で一日50万円以上の預金を故人の口座から引き出そうとしたり、
● 故人の口座の『残高証明』を取得しようとすれば、
銀行側に口座の名義人が亡くなった事を認識され、その預金口座は凍結されてしまいます。
ですので、入院費やお葬式費用などが入用の方は注意が必要です。
その上で、
「もしも銀行側に口座の凍結をされてしまったけれど、どうしても直近の支払いのために被相続人の口座からお金を引き出したい」
という場合、2019年の7月1日以降でしたら、
●『遺産分割協議』が整う前でも、
● 亡くなった方の預金額に対する一定の金額までなら、他の相続人の承諾なく預金を引き出せるようになりました。
しかし、他の相続人の同意なく亡くなった方の預貯金を勝手に引き出すと、後々相続争いに発展する可能性もあります。
ですので、制度を利用する際には十分な注意が必要です。
まとめますと、亡くなった方の預金の引き出しについては、
● 亡くなられた日の翌日以降であれば、相続人間での相談のもと、自由に引き出して構いませんし、
● その行為について税務署が何か口を出してくることもありません。
しかし、これが『亡くなる直前のお金の引き出し』となると話はがらっと変わってきます。
●『被相続人が亡くなる前に引き出したお金』は、
●『亡くなった方の現金』として相続財産に計上する必要があるのです。
何故なのかというところは、こちらの記事で詳しく解説しておりますので、内容が気になる方やもう1度復習したいという方はご覧になってみてください。
【Q.2】20歳(成人)を迎えた子供の通帳を親が管理していると名義預金になる?
○と×どちらでしょうか?
まずは、この問題文に出てくる『名義預金』とはどういったものか改めて復習していきましょう。
『名義預金』とは、
●『預金口座の名義人』と『実際に預金をしている人』が異なる預金で、
● 贈与をした人が贈与を受けた人の預金通帳やカード・印鑑を管理していて、
● 贈与を受けた人が自由にお金を使えないのに
● 贈与をした人はあげたはずのお金を自由に使える
このような状態の預金のことを、他の人の名義を使った預金・・・つまり『名義預金』と言います。
この前提を踏まえた上で、こちらの山田家の場合、
● みのりさんの母親である燈さんが、みのりさんがまだ小さい頃に『みのりさんの名義の通帳』を作り、
● カードや印鑑もまとめて管理しており、
● みのりさんの通帳には、毎年祖父の一徹さんから110万円の生前贈与が行われていました。
一見すると、贈与を受けたみのりさん本人は自由にお金を使えていませんよね。
それに、そもそも贈与というのは
『贈与をする側(贈与者)』と『貰う側(受贈者)』の間で、「あげます」「もらいます」という合意があって初めて成立するものですから、
「一徹さんが幼いみのりさんに対して行なっている生前贈与は無効となり、
みのりさん名義のお金は一徹さんか燈さんの名義預金になるのではないか・・・」
と皆さん思いがちなのです。
ですが、このケースの場合、
● みのりさん名義の預金は一徹さんの名義預金にも燈さんの名義預金にも該当しませんし、
● 贈与契約もきちんと成立しています。
なぜかと言いますと、
●「子供が大きくなるまでは親が子どもの預金を管理する」というのは社会通念上当たり前のことで、
● 法律面からしても未成年者の親は『法廷代理人(親権者)』として子供の法律行為を代理で行うことができます。
ですので、
● 親権者である燈さんや一成さんが『一徹さんからみのりさんへの生前贈与』を了承すれば、
● 一徹さんとみのりさんの間での贈与契約は成立するのです。
それに、税務署としましても未成年の子供が大金を持つ危険性は十分に分かっていますから、
ある程度の年齢までなら親が子どもの預金を管理していることに対して寛容な判断をしてくれます。
では、それらを踏まえた上で、
子供が成人した後も親が子どもの預金通帳を預かっているのは問題ないんでしょうか?
これに関しても、最初の回答通り問題はありません。
『名義預金』と税務署に判断されるのは、次のような場合です。
贈与者である一徹さんが、
● みのりさん本人や親である燈さん、一成さんにも相談しないまま
● みのりさんの預金口座を勝手に作り、そこに贈与を行う。
このように、「贈与者が贈与したお金を自由に使える状態」のものは、税務署から『名義預金』と判断される事になります。
しかし、今回のケースのように
● みのりさんの通帳が贈与者の一徹さんの手元になく、
● 親権者である親が管理している状態なら、
『名義預金』には該当しません。
ですので、例え子供が成人したとしても、
● 子供の預金を贈与者とは異なる親権者が管理している場合であれば、
● 税務署から『名義預金』と指摘されることは滅多にありません。
では、
「親が管理している預金通帳を子供に渡すベストなタイミングはいつなのか?」
と言いますと、
● 子供が独り立ちをして実家を出るとき
● 結婚して実家を離れるとき
こういったタイミングで渡されると良いでしょう。
むしろ、こういった場面で渡さないと、
親が亡くなった時に『実家にいない子供の預金通帳を親が管理していた状態』になってしまいます。
そうなると、税務調査官から
「子供名義の預金は親の名義預金だったんじゃないのか?」
と怪しまれることになりますので、注意が必要です。
ちなみに、この問題はこちら記事からの出題となります。
子供の預金に関して他のポイントも気になるという方は、是非記事をご覧になってみてください。
【Q.3】110万円以上の生活費の援助は受け取った側に贈与税の納税義務がある?
○と×どちらでしょうか?
もう少しだけ詳しく解説をすると、
『扶養義務者相互間』というのは、『親と就労前の子供』『子供と退職後の親』などをさし、
● これら両者間で行われた『教育費』や『生活費』に当てるための『通常の仕送りの範囲内の金銭』であれば、
● たとえその金額が年間110万円を超えていても、贈与を受けた側に贈与税が課されることはない
ということなのです。
では、この『通常の仕送りの範囲内』というのは幾らまでならOKなのかと言うと・・・
これについては、各家庭によって生活費や教育費として必要な金額が異なりますので、
「何十万円~何百万円までなら問題ありません」
と断定してお答えするのが非常に難しいです。
ただ、仕送りをした生活費や教育費が余って、預金回せるような部分は贈与税の対象です。
「それなら使ってしまえばいいんだ」と、旅行や遊びに使えば、
それは相続税法 第21条の3の範囲(生活費・教育費)から外れていますので、
旅行や遊びに使った部分も贈与税の対象になります。
また、成人した子供から親に対して仕送りをしてあげる際も考え方は同じです。
子供から親に振り込んだ年間110万円以上のお金が『親の生活を支えるためのお金』でしたら、もちろん贈与税は課税されません。
しかし、ほとんどないケースだと思いますが、
『親の遊ぶお金を子供が年間110万円以上の贈与をして工面している』のでしたら、その行為は贈与税の課税対象になります。
そして、当然お金を受け取った親は、110万円を超える部分について贈与税を支払う必要がありますので注意が必要です。
ちなみにこの問題はこちらの記事からの出題となります。
この他にも多数のポイントを解説しておりますので、是非確認してみてください。
【Q.4】自分が働いて納税した後のお金ならタンス預金にしていても問題はない?
○と×どちらでしょうか?
当事務所では、これまでタンス預金について複数の記事を出してきましたが、
その中の1つ記事で
「一度タンス預金として高額なお金をため込んでしまうと、そのお金を使った際には税務調査の対象になりますよ」
というお話をしました。
どのように税務調査の対象になるのかを簡単におさらいしていきます。
例えばA子さんという人が、
● 親のタンス預金から毎年贈与税の基礎控除内の金額で贈与を受けて、
● A子さんはそのお金を自分のタンス預金していたとします。
● その贈与が5年間続き、A子さんの手元には合計550万円のお金が溜まり、
● A子さんはそのお金を元手に不動産を購入し、不動産登記を行いました。
そうしますと、こちらの記事でもお話しているように、
● 税務署は「A子さんが不動産を購入した」という情報を法務局から手に入れる事で、A子さんの不動産購入の実態をつかみ、
● A子さんの元へ「お買いになった資産の買い入れ価格などについてのお尋ね」という文書を送ります。
このお尋ねの内容としては、
● あなたの年齢・職業・所得や
● 宅等の買い入れ価格・登記費用・仲介手数料、支払い金額の調達方法
などが尋ねられており、不動産を取得した人は各項目を記入して税務署に提出するわけですが、
A子さんは【④支払い金額の調達方法】として
「親からの暦年贈与5年分から支払った」
と書き税務署に提出をしました。
一見、A子さんの行動は何も問題ありませんよね。
● 毎年110万円以内の贈与は法律で非課税となっていますし、
● そこから不動産の購入資金を捻出しても何も問題はないように見えます。
ですが、この場合「何も問題がない」と分かっているのはA子さん本人だけなのです。
A子さんからの返信が書かれた書類を見た税務調査官は、
「5年間で550万円の贈与を受け、そのお金で支払ったと書いてあるけど、
本当は親から一括でお金をもらっていたのに、贈与税の申告と納税をしていなかったんじゃないのか?」
と疑い、A子さんを追求します。
A子さんとしては
「贈与税の基礎控除110万円の範囲内でもらったお金がたまったものです」
と言いたいところですが・・・
● 親のタンス預金から毎年贈与を受け、
● それを自分のタンス預金として保管していたため、
当然、銀行などにお金のやり取りの記録を残していません。
結果、A子さんが調査官から贈与税の支払いを言い渡された場合、
「毎年110万円ずつもらった」という証明ができないため、その冤罪を晴らせません。
つまり贈与税を支払う羽目になる・・・ということです。
ですが、これは何もタンス預金を行っている方全員に該当するという訳ではありません。
今回のケースが問題になったのは、
● 贈与を行ったA子さんの親も、贈与を受けたA子さんも、
● お互いが銀行の取引データに証拠を残さない『タンス預金』という形でお金のやり取りを行い、
● 税務調査の際に自身のタンス預金の潔白を証明することができなかったからです。
ですが、仮に
● A子さんが自分で稼いで所得税を収めたお金をタンス預金にしている場合や、
● 親から銀行口座を経由して贈与を受けたお金をタンス預金にしている場合、
これらのお金を元手に不動産などの高額な買い物をしていたら、結果はどうなっていたでしょうか?
この場合、このお金の出どころの実態を調査して真偽の証拠を突きつける必要があるのは、税務署側となります。
ですので、納税者側の発言(自分で稼いだ・銀行経由で贈与をして貰った)が嘘でなければ、
税務調査官がどれだけA子さんのお金の出所を調べたとしても、
● A子さんが数十年近く働き、税金もしっかりと納め、その上で貯めたお金か
● 親からきちんと贈与を受けたお金だ
という真実しか出てきません。
結果、「何も問題がなかった」ということになります。
ですが、たとえ『タンス預金』の元となったお金がどんなにクリーンであったとしても、
『第三者から見て出どころが不透明な高額なお金』というのは、
● 実際に使用すると将来税務調査に入られる可能性が高いですし、
● 一度調査に入られたら自身の潔白が証明されるまで調査が続きます。
自分は悪くないのに疑われることは避けられない・・・こんなことに時間と労力を使いたくはないですよね。
ですので、私の事務所に相談に来られるお客さんに対しては、
「将来余計な税務調査を招かないように、やましくないお金のやり取りは銀行を経由して行い、
第三者からもお金の流れが把握できるようにしておきましょう」
と伝えています。
【Q.5】親子間でのお金(預金)の贈与は悪質であっても7年経過すれば時効となる?
○と×どちらでしょうか?
どういうことかモデルケースを用いて詳しく解説していきましょう。
● 父親から息子に預金500万円の贈与が行われたが、
● 息子は贈与税の申告を行うことなく
● 贈与税の申告期限から8年後に父親が亡くなった。
そして、その亡くなった父親の財産を調査官が調査をしている際に、
父と息子の預金の流れから過去の贈与を把握したとしましょう。
この一連の流れを見た多くの方が、
「贈与税の時効は申告期限から6年、悪質な場合であっても7年で時効を迎えるんだから、
8年前に行われているこの親子の贈与に関しては完全に時効が成立している」
と、こう思われるかもしれませんが、そうではありません。
この時、調査官は
「父親から息子に500万円の資金移動があったのに、息子が贈与税の申告をしていないということは、
このお金は父親から息子への贈与ではなく、息子が父親からお金を預かっていただけだ」
とこのように考えます。
そのため、調査官は相続人である息子に対して、
「預かったお金は10年経とうが20年経とうがお金を預けた人のものですから、
この500万円は亡くなった親御さんの財産として計上してください」
と、このように指摘します。
そして預り金を息子が既に使っていた場合、
調査官は「息子が勝手に預かり金を使った」という考え方をしますから、
たとえお金を使い切っていたとしても、預かり金500万円として相続財産に計上することになります。
調査官の言い分としては、
「時効を主張するのあれば、きちんとすること(贈与税の申告)をしてから、言うこと(時効の主張)を言ってください」
というスタンスなのですね。
考えてみてください、
親子間で贈与を行い、それを7年以上黙っているだけで贈与税を払わなくても済むのなら、
親は自分の財産を相続税の基礎控除以下に減らすために子供や孫にどんどん財産を渡して、
子供や孫はそのままじっと時効を待てば、税務署は子供や孫に贈与税もかけることができないし、
亡くなった方の財産も相続税の基礎控除以下になります。
税務署がこんなことを許すはずはありませんし、この方法がまかり通ってしまうと相続税法という法律の根幹自体が揺らいでしまいます。
ですから、
● 時効かどうかで裁判になったとしても、裁判所が時効を認めることはなく、
● 結果、親族間で行われた現預金の贈与に関しては時効が存在しないのも同然なのです。
ちなみにこの問題は、こちらの記事からの出題となります。
この記事では、現預金の贈与の時効についてより詳しく解説しております。
また、「じゃあ不動産の贈与はどうなの?」というところについても解説しておりますので、
興味がある方、内容を忘れてしまったという方は、是非ご覧になってみてください。
まとめ
さて、今回は相続・贈与に関する預金クイズを5つ出題しました。
初級編と銘打っていますが、少し難しかったでしょうか。
また機会がありましたら、これまでの記事の復習を兼ねてクイズ形式の記事を投稿したいと思いますので、その際には是非チャレンジをしてみてください。